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10月21日、労働党の元党首で連邦首相を務めたゴフ・ウイットラム氏が亡くなりました。98歳でした。ウイットラム元首相は、1972年の連邦選挙で23年ぶりに労働党の政権奪還に成功して首相に就任し、数々の画期的な改革を実行しました。しかし、1975年に、当時の連邦総督に首相の職を解任されるという、オーストラリア憲政史上きわめて異例の解任劇で首相の座を追われ、直後の選挙でも労働党は敗北を喫します。(労働党内では、左派の退潮と右派の伸張があり、1983年のホーク首相誕生まで雌伏の時期が続きます。)
ウイットラム元首相の労働党政権の功績として、さまざまな政治改革が挙げられます。
*中国と外交関係を樹立
*徴兵制の廃止
*白豪主義の廃止
*大学授業料の無料化
*全国健康保険制度(メディバンク、現メディケア)の導入
*死刑制度廃止
*連邦家庭裁判所の設置と離婚手続きの簡素化
*国歌を英国国歌から現国歌に変更
*先住民の土地所有権の認定
*人種差別禁止法の制定
*移民政策の変更と多文化主義の推進…
解任までのわずか3年足らずの間に数多くの政策を実現しています。
ウイットラム元首相は、異例の解任劇とともに、今日まで残る多くの改革により、オーストラリアで最も影響を与えた首相のひとりとして忘れられない存在です。
ところで、ウイットラム元首相は移民政策として白豪主義を廃止して、人種差別のない多文化・多民族主義を標榜して、多文化政策を実現しました。今日では移民国家としてオーストラリアは世界にその存在感を示しています。
もちろんオーストラリアは移民社会ですから、多民族・多文化社会だということは自明なのですが、特に最近の「イスラム国」の事件に顕著なように、テロの脅威や、人種や宗教の違いによる相互理解の困難さが、人々の疑心暗鬼をより深め、分かろうとする気持ちよりも先に恐怖心を感じるようになっているのではないでしょうか。イスラムの女性がブルカなどを着用することに対する批判的な声も大きくなっています。
40年前の諸改革により、多文化主義を推進してきたオーストラリアですが、例えば移民省の名称が、「移民・多文化・先住民省」から「移民・多文化省」、「移民・市民権省」、そして「移民・国境警備省」と変遷してきたように、次第に多文化・多民族の考え方がなくなり、オーストラリアの市民権を重視し、ついには国自体を強固に守るという姿勢が前面に出てきたように感じます。
改革の旗手として一時代を画したウイットラム元首相の訃報を聞き、多文化政策の行方を案じてしまいました。
(水越)
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