2016年7月、グループウェア日本国内トップベンダーであるサイボウズ社の青野慶久社長がシドニーを訪れた。日本はもちろん、北米、中国、アジア各国にて幅広く事業を展開しているサイボウズ社は、今年よりオーストラリア市場への進出を開始したばかり。

青野社長は、チームワークを促進するクラウドサービスの可能性を説く企業のトップとして、また総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーとして、さまざまな角度からワークスタイルの革新、多様性のある社会の実現を図っている。

シドニーの街の印象や、オーストラリア市場の可能性、また、チームワークが変える働くことの在り方などをうかがった。

聞き手:鷲足 博

訪れて感じた、オーストラリア市場の可能性

オーストラリアについて「土地が広い」「人が少ない」「資源がたくさんある」といった学校の教科書に書いてあるくらいのイメージしかありませんでしたが、実際にシドニーに来てみて、それなりの規模の街だということを目のあたりにしてビックリしました。ワークライフバランスの違いから日本以上に高いレベルのマネジメントが要求されているようで、市場として成り立つと感じました。

また、多様性も魅力的です。街を歩いていてもアメリカ西海岸のようにさまざまな人種の方がいて、なのに西海岸ほど激しい格差がない。多様性をうまく取り込んでいますよね。

3人で創業したベンチャー企業が、今では社員数600名を超える一部上場企業に

サイボウズ社は1997年に3人で創業したITベンチャーです。当時はウェブ技術が出てきた頃で、ウェブ技術を使えばもっと情報共有をしながら働ける時代が来るという可能性を感じて、グループウェアという切り口でスタートしました。会社は比較的順調に成長していて、今では一部上場企業となり、社員数も600名に増えました。

近年はクラウド技術の登場で「kintone」のようなミドルウェア(プラットフォーム)が作れるようになり、これからグローバル展開を進めていこうという段階です。

サイボウズ社が手掛けるクラウドサービス「kintone」

システム構築というと、お客様がシステム担当者に丸投げして、業務を知らないシステム担当者が作り、いざ使ってみるとまったく使えないということになりがちです。

これらは役割分担したほうが良い部分で、業務側の人もシステム構築に参加できることを実現したのがkintoneなんです。作ったほうも使われるのがうれしいし、使う側も業務をうまく体現したシステムを使える。企業を超えたチームを作るというのがkintoneでやりたいことなんです。
※kintoneの詳細:https://kintone.cybozu.com/jp/

システム構築の在り方は、80年代にホストコンピューターがオープン化してからそれほど変わっていません。クラウドの技術によってシステムの作り方は大きく変えられるはずで、kintoneを広めていくことでシステム構築の次世代に移ることができると考えています。

また、せっかくkintoneがあっても使いこなせる人材がいないと意味がありません。チームで働くためにITを使うことをすっと理解できる人を増やしていきたい…。小学生から大学生まで、それぞれを対象にした教育プログラムも実施しています。

クラウドが変える、未来の働き方

これからは本質的なところで、人が集まって役割分担をしながら同じ目的や目標に向かっていくと考えています。チームがあってワークする。これは会社でも家族でもサークル活動でも同じです。誰がどんな役割をもってどんな仕事をしているのかを可視化してサポートしあい、そして世界中でチームワークあふれる社会を作る。これが僕らのビジョンです。

実際に、kintoneは企業に限らずさまざまな団体で使っていただいており、今ホットになってきているのは地域での活用です。

例えば、山梨県のワイナリーの話です。以前は東京からのバスツアーに対して、ワイナリー同士での情報共有ができていなかったのですが、ワイナリーが連携してkintoneを導入したんです。申し込みフォームを作成して、参加者や見学の目的をリスト化し、それを共有・分析しながら、みんなで企画を考えるようになったんです。従来の組織だけではなく、地域という新しいチームができたわけですね。



医療や介護の地域包括ケアシステム(医師や看護師、薬剤師、介護のヘルパーなど一体的にサービスを提供する)でも、kintoneを使って患者の情報をシェアすることでより効果的で効率的なサービスが可能になります。日本ではすでに実験的に利用がはじまっています。じつは、kintoneを導入しているお客様の4分の1は社外の方と使っているんです。クラウドで組織を超えたチームワークを支援することができるんです。

kintoneが生み出す幸福のサイクル

kintoneは業務量などが可視化されるため、ある意味あまり活躍していない人には都合が悪いシステムです。ですが、それゆえに活躍していない人にどうやって活躍してもらうことができるのかと考えるモチベーションにもなります。この人にはこの仕事は向いていないのかもしれない、だとすればこちらのポストであればがんばれるのかもしれない、など、役割分担の最適化が進みやすくなり、チームワークが高まることになりますよね。

逆に縁の下の力持ちも明確になるので、まわりに感謝の気持ちがわき、本人の自分が貢献できている喜びにもつながるため、幸福度も上がると思います。そして「このチームでよかった、次もまた貢献したい」と思う気持ちが、良い循環を生んでいきます。幸福度の高いチームを作っていくことが最終的な目的です。

会社勤めも家事も「労働」である

僕の祖父母は愛媛県の田舎で農業をしていました。朝2人で畑に行って作業して、祖母が先に家に帰ってお昼ご飯を作る。そして祖父が帰ってきて2人でご飯を食べる。その当時、祖母がご飯を作ることは明らかに労働でした。

ですが、会社勤めが当たり前の現代は、家で食事を作ることが労働だという感覚が薄くなってきました。そういう認識を変えたいんです。お金は発生していないかもしれないけれど、社会を支えるだれかのために貢献していることを明らかにしたい。実際、我が家ではサイボウズLive(サイボウズ社の無料グループウェア)を使っていて、いかに妻がたくさんの仕事をしているのかがわかるんです。

働けど働けどみんながしかめつらになるのではなく、働けば働くほど楽しい社会にならないかなって。そんな社会になったら面白いし、幸福度が上がると思います。

日本から世界を動かし、世界から日本を動かす

世界を動かすのにはどうするのが早いのかと…。偶然にも日本で生まれて、一部上場企業の社長になって、日本の政治家とパイプができ始めた今、日本という国を次世代にシフトすることができれば興味を持ってくれるグローバル企業が増えることを実感しています。実際、男女平等の先進国であるスウェーデンの男女平等大臣とお会いしたり、デンマークの国営テレビ局がサイボウズ社を取材に訪れたりしています。

僕はある意味、古いスタイルを持った日本だからこそ、変えてみせれば参考にしたいと考える国は多いと思います。日本は課題先進国と言われ、少子高齢化や資源の問題など先例のない問題を多く抱えています。それを解決して見せたいんです。

そして、そんな日本を動かすために、他の国の事例も見たいんです。シドニーのように多様化された社会にある会社がこんな風にうまくやっていますよと事例を提示することで、必ず日本の中小企業も参考になると思います。日本はこれから女性や外国人も活用しないといけない状況に直面していき、多様性のある人たちをマネジメントしないといけないわけです。

オーストラリアから日本に持ち帰れるものはたくさんある

オーストラリアで生活しているみなさんに自信を持ってほしいことは、日本よりも民度が高いということです。自立マインドというのは次の時代には不可欠だと思っています。多様性が進むということは一律ではないので、「みんな、これやってください」が通用しない。これをやりたいと思い、仲間が必要であれば情報を発信して、チームワークをしていく。自立してなにかをしようという姿勢をぜひ進めてほしいですね。

中長期的にオーストラリアに住んでいらっしゃる方はいずれ日本の社会へ戻っていくわけですが、オーストラリア滞在中に学べることはたくさんあると思います。

駐在員の方は、多様性のあるメンバーを上手にマネジメントする、その手法を日本の未来に適応できる可能性があります。シドニーから新しいマネジメント手法を持ち帰ることで、日本で新しいマネージャーとして活躍できると思います。また、学生の方は、多様性のある社会の在り方や問題解決のスキルを身につけ、自立マインドを持って日本に帰れば、未来のリーダーとして活躍できると思います。

kintone community in Australia↓
https://www.facebook.com/groups/1113275808737191/

青野慶久(あおの よしひさ)

1971年生まれ。愛媛県今治市出身。
大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。
2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。
社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。
また2011年から事業のクラウド化を進め、有料契約社は15,000社を超える。
総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。
著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。

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