kintone Australiaが主催した講演会『組織・個人を強くする!モチベーションへの向き合い方』が6月14日(水)にシドニーで行われた。スピーカーにサイボウズ株式会社執行役員営業本部長・栗山圭太氏と、ハリウッド俳優の泉原豊氏を迎え、講演を実施。自社の業務に合わせたシステムを簡単に作成できるクラウドサービス『kintone(キントーン)』を販売するkintone Australia取締役営業マーケティング本部長・遠藤烈士氏がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、「業務改革には業務の可視化、属人化の排除、モチベーション向上が欠かせない」とした上で、「モチベーション」をテーマに議論が展開された。その議論の一部を紹介しよう。

プロフィール

サイボウズ株式会社
執行役員営業本部長 栗山 圭太

2002年に証券会社に入社。営業として活躍するも、これからのびる業界に行きたいという思いから第二新卒でサイボウズに転職。ITとは違う業界出身ながら順調に仕事を任され、現在は執行役員営業本部長として活躍。

俳優 泉原 豊

19歳でハリウッド映画出演を志しシドニーへ。オーストラリア、ウーロンゴング大学俳優学科を卒業。映画の代表作に「The Railway Man」や「ウルヴァリン:サムライ」、「Unbroken」などがある。2017年には話題作「ゴースト・イン・ザ・シェル/攻殻機動隊」にサイトー役で出演。

kintone Australia
取締役 遠藤烈士

1995年来豪。ダンススタジオ運営、ウェブ・グラフィックデザイン制作会社を経てウェブを活用した留学事業を立ち上げる。2016年より現職。業務を楽しく効率的に管理できるkintoneのオセアニア地区販売・サポート担当。

理想が一致していれば、同じ方向を向いて仕事ができる

ユニークな働き方を実践しているサイボウズでは、モチベーションを維持、向上させるためにどのような取り組みをしているのでしょうか?

人には、会社員としてやるべきこと、個人の能力としてできること、それに加えてやりたいことがあります。モチベーションが一番上がるのは、この3つの円が重なるときだろうとサイボウズは考えました。上司が各メンバーと面談してやりたいことを必ず引き出し、メンバー個人にはできることを自分でkintoneで宣言してもらって、その上でどういう業務を任せるべきかを考え、できるだけ3つの円が重なる仕事を与える。「できること」は人によって過大評価だったり、逆に過小評価だったりすることもあるので、そこは上司がしっかり見て、正確に把握していきます。

社員のモチベーションをあげるために「クリアしたらお金をあげる」と奨励金を用意する会社は多いですが、サイボウズではここで上がるものはテンションと言っています。モチベーションが上がるのではなく、一時的にテンションが上がるだけ。それはそれで大事なことではあるけれど、経営側としては、その施策がモチベーションと一時的なテンションのどちらを上げているのか、しっかりと理解して使う必要がありますね。

オーストラリアはとても多様で、早く来て早く帰る人がいたり、家族が一番で仕事の優先順位が低い人がいたり、方向性がバラバラになりがちなのが問題だと思うんですよね。同じ方向を向いて仕事をするために、サイボウズではどうしていますか?

サイボウズでは全社員が『問題解決メソッド』に沿って会話をします。まず理想があって、現実があり、そのギャップを問題と定義する。問題という言葉を定義しておけば、部下から相談を受けたときに、「何が理想で、何が現実で、何が問題なんだ」と、解決していけます。そしてこのメソッドの一番のミソは、理想の共有。「なんでそうしたいの?」と聞いたときに出てくる答えがズレている原因は、理想がそもそも違っているケースが圧倒的に多い。だからメンバーと話をするときは、理想をすり合わせるということを一番にやります。

役者も、個人で同じようなことをしています。自分はどこを目指したくて、得意分野はこれっていうのを把握して、理想と今の状態のギャップを理解する。そしてそのギャップを近づけていったやつしか上にはいけない。「食っていけるか不安」、「この仕事ができるか不安」って言う人がいるけど、そういう人は目標意識がないことが多いですね。自分の目標や進みたい方向をバシッと決めたら、不安になっている暇はない。なぜならそこに進むだけですから。だから会社でも、プレイヤーには目標をバシッと言ってあげればいいんじゃないかなと、役者の立場からは思います。

途中参加の人に力を発揮してもらうコツは
「気持ちをオープンにできる」環境作り

映画って、製作期間が1年におよぶ長期のものもあって、その間ずっと関わり続ける人もいれば、入ったり抜けたりする人もいるんですよね? 映画の現場ではどのように途中参加の人を受け入れるんですか?

絶対に必要なのは、温かく迎えてあげることです。ちょっとしか現場に入らない人は寂しいじゃないですか。彼ら自身が気持ちをオープンにできる環境を与えてあげることが大切で、だからADさんは「はい拍手です!◯◯さんきました~!」と盛り上げますし、終わったときもみんなで「ありがとうございました!」と花を渡します。そうしたら後から加わる人が入ってきやすいですし、途中で抜けるときも「もう一回この人たちと働きたい」と思ってくれる。

僕らもチームで仕事をするときに、途中でプロジェクトに入ってきたり、抜けたりする人がいます。必要だから途中であってもプロジェクトに加わってほしいんだけど、気持ちが入ってないと抜け漏れが出ちゃったりするんですよね。この人たちが力を発揮できないとプロジェクトの質が落ちてしまう。

やっぱり受け入れる側が重要です。例えばこの間出演した『ゴースト・イン・ザ・シェル』では、北野武さんが 10 人くらいの付き人の方たちと現場に入ってきました。僕らも緊張するけど、武さんも緊張してるんですよ。だからそのときは、僕らがまず気持ちを開きました。そうしてお互い波長を合わせていけば、プロジェクトも円滑に進みます。温かく迎える精神があれば、迎える方法が違ったとしても、現場はうまくいきますよ。

あと、映画の現場はお金の差がめちゃくちゃあるじゃないですか。このあたりって、現場のモチベーションには影響あるんですか?

ハリウッドにはヒエラルキーがあって、エキストラは 1 日 200 ドルくらいですが、例えば『ゴースト・イン・ザ・シェル』の主役を演じたスカーレット・ヨハンソンのギャラは 29 億円です。でも、この差がモチベーションのひとつでもある。僕らもスカーレットになりたいし、そのポジションに行きたい。彼女の立ち振舞いや演じ方から吸収することで、いずれそこにいけるだろうっていうイメージを持っています。10 代の頃にハリウッド俳優になるって言ったら近所のオヤジに無理だって言われたけど、当時ハリウッドに出たいねって話していた連中も僕も、全員なれたんですよ。100%達成してるんですよ。これは魅力的だと思うんですよね。

収入もそれなりに?

収入を望んでいた人間はそうなっていますよ。お金とか出番とか地位とか、人それぞれ望んでいた場所は違うんですけど、みんな実現できている。最近でも、数年前に「スタントマンになりたい」って言ってはじめたやつが、この間スタントマンとして、大きな賞を取りました。ハリウッド映画って毎年ものすごい数の作品が作られるんですけど、その中でスタントでNo.1になったんですよ。改めて、なれるんだって思いましたよね。

「自分で選ぶこと」がモチベーションの秘訣

お聞きしてると、映画界の人は自分で選んでやっているからモチベーションが高いんですね。上司から「お前はスタントとして有名になれ」って強要されているわけじゃない。自分がスタントマンとして成功したくてやっている。サイボウズでは働き方を選べるようにしたら、うつが極端に減ったんですよ。

最近サイボウズが日本でやった広告のキャンペーンが話題になりましたよね。「ノー残業、楽勝! 予算達成しなくていいならね。」、「さようなら深夜残業。こんにちは早朝出勤。(苦笑)」といったコピーのポスターが JR 東京・品川・新橋の駅をジャックするっていう。自分で働き方を選べない状態にある会社がたくさんある中で、共感する人は多かったのだと思います。

現場の気持ちですよね。今日本では政府主導で残業時間削減に取り組んでいて、経団連に所属する大企業であれば従わなければいけない。我々としては根性論はやめてほしいんですよ。労働時間を削減したいのであれば投資が必要で、手間のかかっている仕事を自動化するなど、ツールで改善できる部分があるはずなんです。だから「ツールで新しい働き方を」っていうのを打ち出したかったんですけど、ポスターの内容ばかり注目されちゃって売上につながらないっていう(笑)

抑えるからうつになるんですよ。つまり自分の好きなことをやれない状態を作っちゃって、気力がなくなる。そういう状態がうつだと思うんです。やりたいことをやれる状態を生み出すには、やりたいことを言葉に出しておくことが大切で、たとえ今は無理だったとしても、タイミングが来た時に誰かがポーンと思い出してくれるんですよ。「お前これできるって言っていたな。このプロジェクトやらないか」って。発言しておいたら、必ず耳に入って記憶に残っているわけです。僕らも同じで、オーディションで選ばれることもあれば、タイミングで選ばれるときもある。だから、やりたいことをちょこちょこ口にしていれば、いつかチャンスはくると思います。

今、僕はたくさん働くことを選んでいますが、働き方を落とすという選択肢もあるんですね。これは組織にとって大事だと思っていて、強制されてしまうと、その働き方から抜け出せないわけじゃないですか。自分で選べるっていうのはすごく大事だと思いますね。

ただ、そもそも最初に「その会社に入ろう」と思ったのは、本人が選んだことですよね。その上で会社に入ってから「こういうことがしたい」って希望を言うのは僕らも一緒です。エキストラとしてこの世界に入った最初は、俳優としての仕事はできなくて、あくまでもエキストラ。そんな中で俳優になろうって決めたやつだけが、チャンスや情報を得たり、事務所が決まったりマネージャーがついたりする。いろいろな人が関わる撮影の現場ではそれぞれの要求も違うけど、それでもどうにかやっていくなかで、その成果を誰かが見ていたり、押してくれたりっていう機会が必ずきます。このプロセスは会社であろうと僕らの世界であろうと、たぶん基本は変わらないと思うんですよね。


「kintone」にご興味のある方は、最新ニュース・イベント情報が随時更新されるfacebookグループ「kintone community in Australia」(https://www.facebook.com/groups/1113275808737191/)にお気軽にご参加ください。